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新潟地方裁判所 昭和31年(行)3号 判決

原告 山岸義司 外一六名

被告 新潟県議会

主文

原告等の訴はいずれもこれを却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、被告が昭和三十一年五月二十五日に為した「新潟県議会五月臨時会の会期を一日間延長する」旨の決議は無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、(一)被告新潟県議会の昭和三十一年五月臨時会は同年同月二十一日召集され、会期は三日間であつたが、二日間延長されて、最終日は同月二十五日となつていたところ、最終日に至り、更に一日間延長すべき旨の発議がなされて、無記名投票による決議により可否を決することゝなつた。(二)会議は同日午後十一時二十分開会され、十一時三十五分頃投票を開始したが、その際議員である原告山岸義司には投票用紙が配布されなかつたので、同原告は直ちに議長小笠原九一に対し投票用紙の配布のないことを抗議して、その交付を要求したが、同議長はその措置を執らず、原告山岸の再三の抗議と要求にも拘らず、これに応ぜず、その間他の議員の投票が終了するや直ちに開票して、会期一日間延長の議決の成立を宣した。(三)しかしながら、右のように出席議員である原告山岸は未だ投票を終えていなかつたのであるから、投票手続は未了であるというべく、従つて右会期延長の決議は投票手続未了のものとして、その効力を有すべき余地もなく、また、出席議員である原告山岸に投要用紙を交付せず、これを投票不可能の状態において為された投票手続は違法であつて、これに基く右会期延長の決議もまた違法、無効のものであるといわざるを得ない。(四)而して、原告等はいずれも被告議会の議員であつて、右決議の無効確認を求める利益を有するのであるが、なお、本訴については地方自治法第百十八条の規定が適用乃至準用さるべきものである。よつて原告等は右決議が無効であることの確認を求めるため本訴に及んだと述べた。

被告訴訟代理人は原告等の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、答弁として、(一)地方議会の決議は地方自治体の内部的意思決定であるに止まり、原告等はその決議の無効確認につき何等直接の利益を有するものではなく、また議員から議会に対しその決議の無効確認の訴を提起し得べきことについては、特にこれを認める法律上の根拠もないから、原告等の訴はいずれも許されないものといわなければならない。(二)原告等主張の請求原因事実中前掲(一)記載の事実は認める。同(二)記載の事実のうち、原告山岸に対し投票用紙を配布しなかつたとの点は否認し、その余の事実は争わない。当日の会議は議員定数六十六名のうち欠格一名、欠席七名で、議長外五十七名出席の下に開かれ、会期延長に対する討論の終結後、議長はその賛否を無記名投票によつて決する旨を宣し、次で議長の命により全出席議員に対する投票用紙の配布を了したのであるが、その直後何故か原告等社会党に属する議員が一斉に投票用紙の配布がないなどと呼号し、原告山岸は投票用紙の配布がないと議長に抗議するので、議長が念の為議事課長にこれを質したところ、全出席議員に配布済みであるとの返答があつたので、投票は開始されたのであるが、独り原告山岸のみは投票用紙の配布がないと称して投票をしないため、議長は投票時間を宣告して投票を促したのであるが、それにもかかわらず、同原告は時間内に投票をしなかつたので、議長は投票を棄権したものと看做してこれを宣告し、次で投票を点検したところ、賛成四十票、反対十六票という結果が出ているのである。従つて本件会期延長の決議は何等違法のものではない。(三)仮りに誤つて原告山岸に対する投票用紙の配布洩れがあり、これがため同原告が投票を為しえなかつたとしても、可決の結果には影響がないのであるから、本件決議には何等違法性がない。

理由

原告等の本訴請求は要するに被告議会のなした会期延長の決議が違法な表決手続によるものとして無効であるから、原告等は同議会の議員として、右決議が無効であることの確認を求めるというに在る。しかしながら、およそ法律的に解決され得べき紛争がすべて直ちに所謂法律上の争訟として裁判所による審判に服するものとはいえないのであつて、それが直接に個人の市民的な権利乃至利益に関係のない問題であるときは、法律が特に裁判所の権限としている場合にのみ司法的審査の対象とされ得るに過ぎないのである。これを本件訴について見れば、前述の通り、原告等が被告議会の議員として被告議会の為した会期延長の決議の効力を争うというに止まり、即ち原告等は他方公共団体の議会の議員という公の地位乃至立場において、議会に対しその為した決議の効力を争うというに過ぎないのであつて、それは何等直接に原告等個人の市民的な権益に関する問題ではないのである。而もこれについては特に出訴を許した法律の規定も見出されないから、本件のような紛争は司法的審査に適しないものといわざるを得ない。尤も原告等は地方自治法第百十八条の規定の適用又は準用により本件のような訴も許されると主張するけれども、同条が地方公共団体の議会において行う選挙に関する規定であることは条文上明白であるところ、同条による出訴の許容は、立法政策上特に裁判所にその審査権を付与したものであつて、同条の性格上濫りにその類推又は拡張解釈は許されないと解すべきであるから、同条の規定は本件のような場合に適用又は準用がないといわなければならない。

従つて原告等の本件訴はいずれも不適法として却下を免れないから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 真船孝允)

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